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以前すくすくでやってたブログを移行~のはずがうまく出来ないので新たに2として開始^^ ~お知らせ~ 最近、ドイツなのか英語圏なのかウイルスなのかわかりませんが、トラックバックを貼っていたりコメントが目立ちますので、トラックバックに関しては、管理人が承諾後に許可をすることにします。ひどい場合はコメントも同様の対応をとる場合があります。
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 「光!光!!おとうさんが悪かった。亨おじちゃんはいたんだよな?ごめんな。」
 兄は光君の部屋の前で、光君にわびていた。光君は今五歳だ。一人部屋とは豪勢な、とついつい思ってしまったが今はそれどころではない。
 「光?聞こえているのかい?亨おじちゃんが光に話をしたいって。聞いてあげてくれないかな?」
 しばらく沈黙が続いた。光君は相当ショックだったのだろうか・・・私はただ兄の後ろで待っているしかなかった。
 「おとうさん?」
 光君の小さな声がした。
 「なんだい?」
 「もう怒らない?亨おじちゃんがいるっていっても怒らない?」
 「あぁ。もちろんだとも。」
 光君はよほど、父親に怒られるのを嫌がっているようだった。
 ガチャ
 光君は少しうつむき加減で扉を開けた。
 「光・・・」
 兄はほっとした様子だった。よかった。私は心からそう思った。親子の仲直りを目の当たりにしたのだ。しかし、この親子喧嘩の原因は私であるし、私の用事も終わったわけはない。話を元に戻させなければ・・・と思ったが、兄がすぐに話を戻してくれた。
 「光、亨おじちゃんは今どこにいる?」
 「おとうさんのうしろ・・・」
 私は光君に笑顔を向けた。光君はにっこりと返してくれた。
 「光?亨おじちゃんが言うことをお父さんに伝えてくれないかな?」
 「うん。」

 こうして、光君を通訳として私が兄と交信できる状態になった。私たちはリビングへと移動した。
 「光君?きこえるよね?」
 「うん。聞こえるよ。」
 「お父さんに伝えてほしいんだ。亨おじちゃんは事故に遭っちゃって、こうして目の前にいるけれど、体はここにはいないんだって。」
 「うん。いいよ。」
 光君は私の言った言葉をそっくりそのまま言ってくれた。自分の言った事をそのまま繰り返されるのは少し気恥ずかしい感じがしたがそんなことを言ってはいられない。
 光君の言葉を聞いた兄の顔がこわばった。
 「光?それは本当に亨おじちゃんが言っているのかい?」
 「うん。そういってって。」
 光君は幸い事故にあって、体がここにないという意味を理解できていないらしい。おそらく死という事についてもまだ理解していないのだろう。
 「そうか・・・」
 兄は何か考えいてるようだった。
 「亨・・・俺の言葉はお前に聞こえるのか?」
 兄は私に問いかけてきた。私は光君に聞こえると答えてもらった。
 「そうか・・・亨。お前がこうした形で私に言ってきたということはおそらく間違いではないのだろう。しかしだ、私がこれだけで信じるのもいかほどなものかと思う。現に私には何も見えない。何の連絡もない。私は今半信半疑といったところだ。この状況を明確に出来る方法はあるか?」
 「・・・ある。」
 兄らしい問いかけだった。兄は頭が昔からよく、自分の目で確認するまでなかなか信じようとしない、科学的な人物だった。
 「お父さん、あるって言ってるよ。」
 「亨。その方法とはなんだ?」
 「・・・警察に連絡してみてくれ。警察が今身元確認で身内を探し回っている。一度自宅にいるときに刑事がやってきた。わけがわからず出てしまってややこしいことになってしまったが・・・」
 「光?何か言っているか?」
 光君に伝えてもらうということを忘れて普通に言ってしまった。光君の理解を超えていたようで光君は困っていた。
 「ごめん。光君。お父さんに警察に連絡して、って伝えてくれないかな?」
 「う・・・うん。」
 「光?」
 「お父さん。亨おじちゃんが警察に連絡してくれだって。」
 「・・・なるほど。遺体の確認をしてくれというわけだな?確かに証明するにはもってこいの方法だ。」
 兄は納得してくれたようであった。早速電話機の前に向かった。
 「亨・・・どこの警察に連絡すればいい?」
 「鶴谷警察。」
 「鶴谷警察だって。」
 「よし。わかった。」
 兄が警察に連絡を取ってくれている。これで私の存在が証明できるだろう。これからは兄は結構頼りがいがありそうだ。

                                    To be continued

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 もうすでに何回頭を打っただろうか。やはり思い込みってのはなかなか取れない。思い切って飛び込んでみてはどうだろうか?失敗したら・・・いや、そんなことを考えても仕方がないか。扉が壊れたとしても私だとわかることはないだろう。なんだか良心が居た堪れない気持ちになるが仕方ない。
 「よし。助走をつけて一気に・・・」
 私は扉から少し離れた。深呼吸をして、扉はない。扉じゃない。と何度も言葉を唱えた。息を整え、私は一気に走りこんだ。
 「えいっ」
 ズテンッ・・・
 あぁ、やってしまった。扉が・・・あれ?私は辺りを見回して驚いた。なんと玄関にいるのだ。
 「やった。成功だ。」
 ずいぶん前に兄の家に来たときとは、玄関の雰囲気は変わっていた。奥さんの趣味が変わったのだろうか。昔は橙色のものが多かったように思われたが、今回は青色の感じ。
 ガチャ。
 私が、玄関が変わったと思っていると兄と兄の息子、光(ひかる)君だ。
 「ただいま~」
 兄が言う。それに続いて光君も
 「ただい・・・ま・・・」
 光君は、元気よく言い出したかと思うと、私と目があってから元気がなくなった。
 「光?どうした?」
 兄が不思議そうに問いかける。
 「おじちゃん・・・おじちゃんがいるよ。」
 光君は恐る恐る答えた。
 「えっ?」
 私と兄は声をそろえていった。光君には私が見えているのだろうか?
 「光?どうしたの?おじちゃんはここにはいないよ?」
 兄はかなり心配そうな声で言った。私はどうすればいいのかわからなかった。
 「おじちゃん・・・いるよ。いるよ。」
 光君は少し泣きそうになっていった。私はどうすればいいのかわからず、とにかく部屋の中に逃げ込んだ。
 「あっ・・・」
 光君はすぐに私を追いかけてきた。少し泣き顔になりながら。
 「光・・・」
 兄もすぐ後を追いかけてきた。私はどこにいけばいいのかわからず、とりあえずリビングに逃げ込んだ。

 「・・・おじちゃんだよね?」
 光君は私の後を的確に追いかけてきて、恐る恐る聞いてきた。どうやら光君には確かに私の姿が見えているらしい。
 「・・・うん。光君はおじちゃんがみえるんだよね?」
 「・・・うん。」
 光君にとってはすごく不思議な質問だっただろう。
 「光・・・誰と話しているんだい?」
 兄が聞いた。兄がこのように聞く姿からかすると、どうやら私の姿が見えていないらしい。やはり絆が足りないのだろうか?しかしなぜ光君には見えるのだろう?
 「光?おじちゃんはここにはいないよ?遠くに住んでいるんだよ?」
 「おじちゃんはここにいるもん。今お話しているもん。」
 なんだか不思議な会話になってきた。しかし、光君には私が見えている。利用するといえば聞こえが悪いが、兄に見えていない以上、手伝ってもらうしかない。
 「光君?おとうさんに伝えてほしいことがあるんだけど、いいかな?」
 「うん。なに?」
 どうやら光君はそこそこ慣れてきたようだ。
 「光!いい加減にしなさい!」
 兄が怒り出した。気味が悪くなったのだろうか?しかし、今のこの機会を逃すわけにはいかない。
 「光君、おとうさんに、おじちゃんが大変なことになった。警察に連絡して、確認を取って。って言ってくれるかな?」
 光君は、私の言葉を聞いていた。だが、兄が怒り出したことにおびえて固まっている。
 「光!おじちゃんはここにはいないんだよ?どうしたんだ?」
 私はここにいる!気づいてくれ・・・私は思った。
 「おじちゃんはここにいるもん。おじちゃんが、おじちゃんが・・・」
 光君は伝えようとしてくれていた。
 パシッ
 兄が光君を打った。とうとう兄が耐え切れなくなったらしい。
 「光!いい加減にしなさいっ!」
 兄が怒り、光君を打ち、光君は泣いてしまった。私の責任だ・・・私がここにいるために、光君が打たれてしまった。私にはどうするこもできないのか。なんとかして、兄に伝えなくては・・・
 「おとうさんのばかぁ!!」
 光君はそう泣きじゃくって二階へと消えていった。兄はしばらくたたずんでいた。
 「しまった・・・」
 兄は小声でそういった。どうやら後悔しているらしい。兄は兄なりに親父としてやっているのだ。
 「大丈夫。光君はわかってくれるさ。」
 「えっ?」
 私は思わずいってしまった。気のせいか、その言葉に兄が反応した気がした。
 「もしかして・・・本当にいるのか?亨?」
 兄が聞いてきた。少しは聞こえたのだろうか?
 「あぁ。いるぜ。光君には迷惑かけちまったけどな。」
 「亨?・・・」
 「すまねぇ。俺、事故っちまって死んだらしい。遺体が警察にある。頼めないか?」
 「亨・・・いるわけないよな。」
 「えっ・・・」
 「光・・・誤らなくちゃな」
 兄には私の声は届いていないようだった。私が一人でつぶやいてる状態ではないか。どうしても気づかせられないのだろうか・・・私は私の出来ることで何かないかと思った。そうだ、物を動かせばいいんだ。確か、まだ思い込みが強いはずだ。物なら動かせる。音も立てられそうだ。私は兄が光君の下へ行く前にと思い、壁を叩いた。
 「光のやつ、かなり怒っているみたいだな」
 しまった・・・また光君に・・・仕方がない。私はリビングにあった椅子を動かした。
 ずっずずー
 兄はそれに気づき固まった。私はようやく兄に存在が伝わったかと思った。
 「きっ・・・気のせいだよな?」
 兄は自分の中で納得してしまった。気のせいでないことを何とか証明しなければ。

 次に私は、カーテンを開け閉めした。電気をつけたり消したり、テレビをつけたり消したり、水を出したりとめたり・・・いろいろやった。兄は完全に固まっていた。
 「・・・まさか、亨なのか?亨がやっているのか?」
 私はそれに返事するつもりで、机を鳴らした。
 「亨???光が言っていたのは本当なのか??どこにいるんだ?俺には見えないぞ?なにかの手品か?亨どこだ?出てこいよ?」
 兄はかなり動転していた。こんな動転した兄を見るのは初めてだった。私は何とか存在を知ってもらえてうれしかった。しかし、詳しい内容を伝えることが出来ない。やはりここは光君が必要だ。
 「亨??光か?光ならわかるのか??」
 そうそう、そうきてくれなくては困るのだ。私はまた同じように机を鳴らした。
 「よし、わかった。亨、お前がいるんだな。」
 兄は少しおびえながらも「、了解した面持ちで、二階へとかけあがっていった。

                           To  be  continued

 祠の霊についていき、しばらくすると兄の家にたどり着いた。
 「おまえさんの目的地はここで間違いないかのぅ?確かここの住人は今の時間帯は誰もいないはずじゃなのぅ。」
 「そこまでわかるんですか?」
 「あぁ。この町に住む人の行動は大体把握しておるよ。」
 「そうなんですか。じゃぁ最近の兄の様子もわかるんですか?」
 私がこう質問したとき、祠の霊は少し困った顔をした。
 「わかることはわかるが・・・」
 「何かまずいことでも?」
 祠の霊は明からに、その通りという顔をした。
 「わしらはここの住人の個人的な生活を教えてはならないんじゃよ。住処にまで導くことはできてもな。ただ、これは人間を対象にした話じゃからなぁと思ってな。おまえさんは霊だからいいとは思うのじゃが、なんだかおまえさんは霊といった感じがしなくてのぅ。」
 「僕は正真正銘死んでますよ。今こうしてここに来たのも、兄に死を伝えるためですよ。」
 「ふむ。」
 なにやら祠の霊は考え込んでしまった。
 「おまえさん、本気自分の死を兄さんに伝えるつもりなのかい?」
 「えぇ。そのつもりです。」
 「そうか。」
 祠の霊は何か言いたげであった。
 「おまえさんがどうしようとわしにはとめることはできん。だがな、わしの経験からすれば、それはやめといたほうがいい。あまりいい結果はうまないと思うがの。生きている人間には幽霊からの死の宣告はあまりに酷じゃ。感謝の気持ちを述べる程度にして去るほうが賢明だとわしは思うがの。」
 「そんなものなのでしょうか。」
 私も考え込んでしまった。自分の状況を伝えることしか考えていなかった。確かにこの世にまだまだ行き続ける兄のことを考えれば、そんな宣告はできないかもしれない。
 兄に私の姿が見えれば、私が完全に消えてしまうまで死んだことを隠しておくほうがいいのではないか?普通に接し、最期のときを過ごしたほうがいいのではないか?私の中でそういった考えが湧き出てきた。

 「おまえさんの死はおまえさんがつたえずとも、警察によって必ず伝わるだろう。現にお前さんはそれだけ移動できているということはすでに、発見されて、いろいろとことが運んでおるのだろう?」
 幽霊というのはどこまで把握することができるのだろう?こんな話をした覚えはない。しかし、長年幽霊をやっていればなれるのであろうか。
 「わしはここで失礼するよ。この先おまえさんがどうするかはおまえさんが決めることだ。もし何かまた困ったことがあったら祠によっておくれ。こうして道案内をしていなければそこに大体いるからのぅ。」
 「ありがとうございました。」
 「ほっほっほ。達者でな。」
 そういうと祠の霊は去っていった。またいずれ会うだろうという雰囲気を残して。

 さて、兄の家の前に一人残されていった私は一体どうすればいいのだろう。誰もいないのなら中に入ることができない。兄が帰ってくるまでこの辺を歩き回るか。そう考えていると、ものすごいエンジン音が聞こえた。ここはそれほど広くない道である。車が一台通るくらいの幅だ。そこへ、黒の高級車がものすごいスピードでやってくるのが見えた。気づいたときにはすでに私は避けるタイミングを逃していた。車はどんどん迫ってくる。私は避けられない。車は私に気づく様子はなくそのまま突っ込んでくる。

 「もうだめだっ!」

 そう思った瞬間、私と車はぶつかった。私は宙に舞い、吹っ飛ばされた。はずだった。そうだと思ったが、どうしたことか、車は私の体を通り抜けて、いや、性格には私が車の中を通り抜けたのだ。
 「そうか。俺は幽霊だったんだ。ぶつかると思ったが、それほど思念は強くなかったのか。」
 私はそうつぶやいた。確かに車に必ずぶつかるとはどこか思っていない面がある。幼いときからやっていたテレビゲームの感覚が幸いしたのだろうか。私はこのとき思い出した。強し思念さえあれば、ほとんどのことができる。つまり、兄がいないこの家の中で兄を待つことができる。私は幽霊である。扉など開けなくていいのである。私はそう思い、兄の家の玄関まで進む。
 兄の家は少し丘になった場所にある。閑静な住宅街。少し広い目の一軒家が続く。その中にある一軒である。玄関の横から庭に通じている。そこから見える限りでは、庭はかなり整えられている。兄の奥さんの趣味であろうか。その手前には犬小屋らしきものが見えた。犬の姿がない。鎖が外れている。兄と散歩にいったのだろうか。それとも逃げ出したのかわからない。ただ、私には好都合である。誰にも邪魔されず、集中して扉をすり抜けられるからである。
 玄関の扉をみつめる。この扉は扉だけど、抜けられる。私の目の前には何もない。いや、あるのは通り抜けられる壁だけだ。私は目をつぶってそう強く思い込むよう努力した。しばらくそれを行った後、一呼吸してから、通り抜けに挑戦してみることにした。緊張の一瞬である。
 私は一歩前に進む。そして頭を扉のほうに近づけて、
 「通り抜けろ」
 そう思って、勢いに任せて扉に頭を近寄せた。
 ゴツン
 失敗だ。思いっきり頭を打った。やはり無理だった。まだ思念が足りないのだろうか。私は何度か挑戦してみることにした。

                                         To be continued

 

 家族にこの状況を理解してもらうにも、両親に知らせるには少し場所が遠すぎる。私は、一人で上京してきて一人暮らしをしている。とはいえ、少し足を伸ばせば、兄の家族が近くに住んでいる。
 私は両親と兄との4人家族であった。兄は花田雅彦(はなだまさひこ)で年は5つ離れている。兄はすでに結婚し、3歳になる子供がいる。その子供は確か光ちゃんだったと思う。何せ、ここしばらく兄とは連絡を取っていないし、もともとそれほど仲がよかったわけではない。幼いときから喧嘩が絶えず、よく周りから、5つも離れているようには見えないといわれたほどだ。
 「強い絆で結ばれていれば見える、か。」
 私はふと、木下準の言葉を思い出した。特に霊感がなくても、強い絆があれば見える。しかし、もしなければ・・・そんなことを考えている余裕はない。一刻も早く事態を理解してもらわねば。私は兄のところへ向かうことにした。

 私は自宅を出る準備をしようと思った。だが、よく考えてみれば、何も持つ必要がない。とにかくこのままいくしかないのだ。玄関に行く。扉だ。すぐにはあけてはならない。廊下に人がいたら、戸が勝手に開いて閉まったことになる。私は誰もいないか集中して廊下の音を聞いた。誰もいなさそうだ。私は一呼吸おいてからすぐに家を出た。誰もいない。よし。とにかく急いで兄の下へ向かった。

 兄の場所へは電車を利用してしか行ったことがない。もちろん、幽霊となった今、電車はある意味乗り放題である。だが、なんだか気がひける。木下がいってたように体を少し傾けて移動することにした。確かに彼のいっていたとおり、私の体、つまり幽体は浮いている。気持ち体を前に向けた。すぅーっと重心が前に移動する。このままではこけてしまう!そう思ったとき、体が前に進みだした。こけずにすぅーっと前に進むのだ。これはこれでなんだか楽しい。体の傾け具合でスピードの調節ができる。おそらく曲がるときはどちらかに体を傾ければいいのだろう。私は、少しするとコツをつかめた。そしてそのままそれで兄の元へ向かうことにした。

 家を出て、兄の家の方向へ向かった。普段通らない道や、みかけない建物などいろいろある。自分の住んでいる町をこれほどまでじっくり見たことがない。幽霊になって時間がないとはいえ、やはり、普段のせかせかとした生活と違って少しは気持ちの余裕がある。仕事の束縛から解放され、ある意味では自由なのである。そうして1時間ほど移動したころ、兄の住む町にたどり着いた。兄の家はこの町の端っこにある。以前着たときは駅から自宅まで車で送ってもらったのであまり道を覚えていない。とにかく兄の家の周りの雰囲気があればと思ってその辺を探すことにした。

 近くには普通くらいの民家がいくつもある。結構な人間が住んでいるように思われる。もちろんこの町にも幽霊はいるのだろう。私のような新米幽霊もいれば熟練した幽霊もいるのだろうか?私はそう思いながら町を探していた。しばらくして、道が三叉路になっているところに出た。その中央に小さな祠があった。私は何気なしに、その前にいった。
 何の変哲もない祠である。何が祭られているのか。私にはわからない。よくよく見ると誰かが毎日手入れをしているようである。祠に見入っていると後ろから誰かの声がした。
 「おい。お前、ここで何してる?」
 すごくガラガラな声であった。声からして年齢は相当いってそうである。私は恐る恐る振り返った。
 「ほう。私の声が聞こえたのか。ということはおぬしは・・・死んでおるのか」
 独特の間の持ち方で私に話しかけてきたものは言った。見た目はどう考えても70歳以上であろうか。かなり年をとった老女だった。
 「すいません。兄を探してここまでやってきたのですが、この祠がなんとなく気になって。」
 「ほう。兄を探しにか。」
 「はい。実は先日死んだばかりでして。兄にこの状況を伝えようかと。」
 「なるほど。よく新米の幽霊がすることだ。どれ、兄の名前はわかるのか?」
 「えぇ。花田雅彦っていうんです。」
 「花田雅彦か・・・うむ。確かに彼はこの町に住んでいるようじゃ。ここからだいぶ近いのぅ。どれ、私も暇だから連れてってあげようか?」
 「えっ?」
 思いがけない展開である。しかし、はじめてあったこの老女を信頼していいのだろうか?彼女は死んでいるのか生きているのかもわからない。それによく、知らない人についていってはいけないという。果たしてどうしたものか。
 「あの・・・ありがたいのですが、あなたはいったい?」
 「おぅおぅ、そうか新米はまだわからんかのぅ。私はこの祠の主じゃよ。町にある小さな祠や地蔵は、その町を守っておるのじゃ。そしてその町のことなら何でも知っておるぞ。あと私らには名前などない。祠にいるだけじゃ。大体は、私のような老女か、動物の格好をしておるな」
 「・・・そっ、そうなんですか。知らなかった。」
 「なんじゃ、あまり幽霊について知らないみたいだな。」
 「えぇ、ある程度の説明をしてもらっただけですから。」
 「まぁ、いいか。これから徐々に慣れてゆけばよいからのぅ。ではお前さんの兄さんの元へ向かうとするかのぅ。」
 「よろしくおねがいします。」
 幽霊であるのだから大丈夫だろう。そう思って私は彼女に兄の元への案内をしてもらうことになった。

                                           To be continued

 「俺は幽霊・・・そして、この世にいられるのはあとわずか。」
 私は自宅に戻り、鏡の前でまじまじと自分の姿を見つめた。どうみても最近の私の姿ではない。本当に一番楽しかった時期というのであろうか、その当時の姿だ。
 「俺にはまだしなきゃいけないことがあるよな・・・」
 私は心の中であれこれと考えた。この世にいる友達や家族や恋人。いろんな人にまだいいたこともいえていない。それには私はこの世に長々ととどまるつもりはない。長々と入るといつか、霊媒師やら除霊士なんかがやってきて無理に成仏させられるくらいなら自分で逝ったほうがましだと思うからだ。
 「さて、まず何から手をつけるか。」
 やはりまずは家族に自分が死んだことを伝えて、この状況を何とか理解してもらおう。事故を起こしていたようだし、いろいろと手続きやらがあるだろう。

 ピンポーン・・・ピンピンピンピンポーン
 突然インターホンがなった。かなりせっかちな押し方だ。いったい誰だろう?私が死んだことを知らない人ならば出でも大丈夫だろう。
 ピンピンピンピンポーン
 私は相手のあまりのせっかちさに思わず受話器をとった。
 「はい。」
 「・・・ん~?おい今何かいったか?」
 画面に映っている男はこちらではなくて、横にいる誰かに問いかけているようだった。」
 「いえ。何もいってません。」
 画面には映っていない誰かの声がした。あまり大きい声ではなかったのではっきりとはしなかったが横にいるのは女性のようだ。
 「・・・あれ?ならない」
 画面に映っている男はインターホンをまた押したようだ。私が受話器を取っているため、インターホンはならない。
 「・・・壊れたか?」
 「先輩がそんなにせっかちに押すからですよ。」
 「そんなに押したか?」
 「えぇ、十分」
 まったくその通りだ。押しすぎだ。しかし、私が受話器を取っている間はインターホンはならないし、私の声が聞こえない限り、彼らは私が出ていることを知りようもない。私はなんとか聞こえないものかと思って大きい声で返事してみた。
 「はいっ!きこえますかっ!!」
 「・・・・・・今のは、聞こえたよな?」
 「・・・さぁ?私には何も。」
 「何かご用件でもっ!?」
 「・・・花田さんですか?」
 男は少し驚いた表情で、低いトーンで聞いてきた。
 「そうですがっ!」
 「・・・花田亨さんはそちらにいらっしゃいますか?」
 「えっ・・・」
 私は思わず言葉に詰まった。花田亨とは私のことだ。しかし、私は死んでいる。ここで「はい」と返事していいものだろうか。私と面識のある人が私のことを知っていてもおかしくない。しかし、なぜ見ず知らずの彼らが知っているのだろうか?私は標識には「花田」としか書いていない。
 「あの・・・いらっしゃらない?」
 「えっと・・・みたいです。」
 「そうですか。あなたと花田さんの関係は?」
 「えっ・・・」
 この男かなりきわどい質問をしてくる。どう返せばいいのか。そもそもなぜこの男は私のことを根掘り葉掘り聞くのだろうか?この男の正体は・・・私はなぜこの男に私のことを答えなければならないのかと思った。
 「あの・・・どちらさんで?」
 「あっ・・・」
 男は何かを探し出した。
 「こういうものです。」
 画面いっぱいに何かを見せてきた。それは、あまりはっきりしないが、明らかに警察手帳だった。
 「鶴谷警察の藤原というものです。」
 「同じく鶴田に警察の春野です」
 二人は自己紹介をした。となりにいた女性は春野。そして、せっかちなこの男が藤原というらしい。
 「警察ですか?いったいうちに何のご用件が?」
 私は私でない振りをするしかなかった。
 「えぇ~どうやらご存知ないようですね。昨夜、花田亨さんと思われる方が交通事故にあいまして亡くなられました。その件で伺いました。」
 春野という刑事ははっきりと丁寧に説明してくれた。この二人が来たわけがはっきりしたが、私は自分が窮地に追い込まれていることに気づいた。この話の流れでいくと、おそらく同行を求められて、死体の確認とかさせられそうだ。違うとしても、おそらく話だけでもという流れになりそうだ。とてもじゃないが、自分の姿がこの二人に見えるとは思えない。いや、声が聞こえたから見えるかもしれない。しかし、私が見られると、死んだ私は誰なのかということにもなりかねない。
 「死体確認のために警察まで来ていただけませんか?昨夜、こちらに電話をいれさせてもらいましたが、どなたもの出ませんでしたので。」
 「その・・・私は花田さんと知り合いですが、顔はよく知らないというか・・・」
 自分でも何を言っているのかわからないことを言ってしまった。
 「・・・どういうことですか?」
 「あぁっと・・・よくわからないです。」
 「ふざけるのはよしてください。人が一人亡くなっているのですよ?」
 確かにその通りである。だがこちらもふざけているわけではない。
 「その・・・いろいろとわけあって、いけません。」
 「ほう・・・そのわけとは?」
 明らかに疑っている藤原の声がした。
 「・・・私が、花田亨だから・・・です」
 「・・・おい。話になりそうにない。他あたるぞ。」
 「そうですね。」
 どうやら完全に私がふざけているととられているようだ。
 「いいですか?花田さん?あなたは亨さんではないですよね?ふざけるのもいい加減にしてください。またいずれくることになるとは思いますが、そのときはきちんと話をしていただけますよね?」
 「・・・さぁ?」
 「・・・失礼します」

 二人は不満そうな顔をして去っていった。なんとかこの場を乗り切ったが、今後、このようなことが起きないようにするために、私はインターホンには答えないことにした。

                                   To  be  continued

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プロフィール
HN:
葡拿寡
年齢:
36
性別:
男性
誕生日:
1987/12/02
職業:
大学院生&塾講
趣味:
読書
自己紹介:
大阪市内に住む大学院生です。
専攻は国文学で、「諏方縁起」を中心に研究を進めていました。

しばらく、更新していなかったのですが、やっとこさログインできるようになったので、更新していこうと思います。
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