[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
「おい!花田!」
私は信彦の制止を無視した。とにかくこっから離れなければ。そしてあの男のところへ。あの男なら何か知っているはずだ。
「おい!・・・なんだあいつ?有田!何か知ってるか?」
「・・・さぁ?」
私はいくら走っても疲れない。最近運動不足で体力も落ちているはずだ。見た目が若いからか?いや、なんだか地に足が着いている感じがしない・・・私はいやな予感がした。私に足がないのかもしれない。私は怖くて下を向けない。私のなかで、死と生が半々くらいある。下を見れば死の割合が大きくなる。私は見ることができない。怖い。私はとにかく走った。電車には乗れない。見えてみるのかどうかもわからないのだ。どうせなら走りぬいたほうがいいかもしれない。私はとにかく走る。気がつけば私は何も持っていない。会社にすべておいてきている。走る。とにかく走る。あの男のところへ。実際あの男が何を知っているのかもわからない。それとあの男のいっていたとおりになっている自分に嫌気がさす。だが、私は走るしかない。走る。いくら走ってもなかなかつく気がしない。それはそうか。会社から駅までは相当ある。3時間走ればつくだろうか。メロスはこれ以上に走ったのだろう。友のために。しかし私は自分のために走る。友のためではない。だが走らねば。
どれほどの時間走ったかわからない。私は走り続けてようやく、地元の駅に着いた。あの男がいるところへ。私は遠めで彼を見つけた。私は呼吸を整えて、彼の元へ近寄る。鼓動がなる。このまま彼に聞けば、私は自分が死んだことを認めることになるのだ。怖い。だが、自分で足元を見るより、人に言われるほうが容易に受け入れられるかもしれない。彼にかなり近づいた。彼は相変わらず同じ方向を見ている。私は彼に問いかけようとしたとき、彼のほうが先に口を開いた。
「よう。おかえり。やっぱり戻ってきたか。」
彼は非常に慣れている様子だった。
「その様子じゃ、会社ってとこからわざわざ走ってきたのか?」
私はいろいろ聞きたかった。だが言葉が詰まって何もいえない。
「ははは。よっぽど疲れてるなぁ。その顔じゃ他のやつらと同じか。」
やっぱり彼は慣れているようだ。私はなぜか彼の分析を始めた。
「お前さんには厳しいかもしれないが、お前さんの思うとおりだと思うぜ。お前も死んだのさ。」
「やっぱりか」
私の初めての言葉がこれだった。
「なんだ。他のやつと同じように死を受け入れられねぇかと思ったがそうでもないようだな。」
「俺は死んだのか。」
「そうだ。これからしばらくは霊としてこの世にいることになるがな。」
「しばらく・・・だと?」
やはり、この男は何か知っていそうだ。私が幽霊として生きていくうえで必要な情報を。
「俺はどうすればいいんだ?」
「はっ。やっと興味を持ったのか?お前さんがどうするかなんてのは俺の知ったことじゃない。ただお前さんがどうしてもこの世に残ってどうするか知りたいなら、教えてやってもいいがな。」
「・・・頼む」
「声が小さいな~?人に頼むときの態度は?」
実にいやなやつだ。人の弱みに付け込みやがって・・・そう思う気持ちをこらえつつ、私は彼に頼んだ。
「いいだろう。教えてやる。いいか?俺たち幽霊にはできることとできないことがある。」
「できることとできないこと?」
「そうだ。俺たち幽霊は、普段は物に触れることができない。」
「物に触れられないのか?」
「そうだ。普段は、な。ただ物に触れる方法がある。」
「それはなんだ?」
「そう、せかすな。」
明らかに男は私をじらしている。私はじらされるのがかなりきらいだった。
「物に触れるには、強い思念が必要だ。触れたい物に触れたいと強く思うんだ。そうすれば、触れられるはずだ。」
私はそのときふと思い出した。朝、私は扉を開けたし、電車にも乗った。大して強く念じてもいないのに・・・
「おい、ちょっと待ってくれ。俺は朝、強く触れたいとも思わずに電車に乗ったり、扉を開けたりしたぜ?」
「そりゃそうさ。お前さんは、死んだことに気づいてなかった。だから、電車には乗れる、扉はあけると当たり前なこととして、思い込みがあるからさ。物に触れるには強い思念がいるだけだ。ただの思い込みでもかまわない。」
「なるほど。じゃ、逆に言えば、目の前に壁があっても、通り抜けれらるんだと思えば、通り抜けられるということか?」
「その通り。飲み込みが早いじゃないか?だがな、これが結構厄介で、壁によくぶつかるやつもいる。思い込みってのは怖いものでな。」
「なるほど。」
「あと、お前さん、走ってここまで帰ってきたそうだが、別に走らなくても俺たちは少しばかり浮いているから、体の重心を前に傾けるだけで移動できるぜ。まっ、これが幽霊らしい移動法だな。」
「なるほど。」
まったくもって感心させられることだらけであった。今まで、テレビや本などで幽霊について述べられてきたこともあれば、そうでないこともある。他にも、大きなものや重たいものでも、軽いと思って、持つと思えば、もてるらしい。幽霊は夜に現れるなんてことはなくて、いつでもいる。人の霊感や恐怖心が幽霊を見せたりするらしい。幽霊は幽霊が移動する道があるらしい。いろいろと聞く中に重要なことがあった。
「こっからは本当に大切なことだ。心して聞け。」
「おっおう。」
「まず、普通の幽霊は、肉体が死んでからこの世でいられるのは49日間だ。」
「シジュウクニチってやつか?」
「そうそう。よくわかっているな。」
「49日でみんないなくなるのか?」
「いやいや、それは普通というか、最低日数だ。この世に未練もなくて、自分が死んだことを悲しむ人間がいなければの話だ。普通の人間はそうじゃない。たいていは、現世への未練、現世人が思う気持ちが、俺たち幽霊をこの世にとどめる。」
「そうか。お前さんは確か、月を見ているといっていたような・・・」
「そう。俺の未練は月さ。俺は月が見えるまではここから移動することができない。」
「そうか。でもさっき言ってたように、この建物を持ちたいと思って移動させればいいじゃないか?」
「そうしたい。だができないのだ。これが重要なことの二つ目だ。」
「二つ目?」
「49日間は自由に移動できる。だがな、日数が重なれば重なるほど、俺たち幽霊はあの世へと近くなる。よほどの恨み、未練がない限りは3年もしないうちに消えてしまう。恨みや、未練は日にちがたてば、だんだんと薄れていってしまう。生きている人間の想いなども徐々に消えていく。仕方がないことなのだ。」
「・・・なんだか悲しいな。」
「そうさ。幽霊は本当に時間がない。そうして、この世にとどまる力が弱まってくると下手に移動できなくなる。移動するとだんだんと自分の存在が消えていく。幽霊になってからは新しい未練は生み出せない。ずっとそれを持ち続けるしかないのさ。」
「なるほど。お前さんが、もしここから移動したら、月を見る前に消えてしまう可能性があるのか。」
「そうさ。だから俺はずっとここにいる。そして三つ目。俺たちが見えるかどうかだ。」
「・・・!?それはぜひとも知りたい。」
「俺たちはある条件を満たす人たちに見えることができる。ひとつ、絆が深い人。ふたつ、霊感が強い人、みっつ、俺たちの思念が強く具現化できたとき。」
「おいおい、ひとつめ、ふたつめはわかるが、みっつめってのはいったい。」
「最近はいろいろと話が知れているから、説明が少なくて済む。みっつめのは、恨みがあるときの話だ。恨みがあり、そいつに恨みを晴らしたいと思っても、相手に見えないときがある。最後に相手に姿を見えて反省させるという意味で有効といった感じだな。」
「なるほど。いろいろと制限があるんだな。」
「あぁ。あと、日数を重ねるごとに肉体のある付近、もしくは、骨のある付近しか移動できなくなるから注意しろ。」
「わかった。」
「あとは、おまえさんの自由にするがいい。」
「あぁ。ありがとう。」
私はあの男にいろいろと説明してもらった。私は最後に男の名前を聞いた。彼の名前は木下準(きのしたじゅん)。昭和時代に不幸にも命を落としたらしい。私たちは、またいずれ会うことを約束して、私は自宅へと戻った。
To be continued
04 | 2024/05 | 06 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | 3 | 4 | |||
5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 |
12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 |
19 | 20 | 21 | 22 | 23 | 24 | 25 |
26 | 27 | 28 | 29 | 30 | 31 |
専攻は国文学で、「諏方縁起」を中心に研究を進めていました。
しばらく、更新していなかったのですが、やっとこさログインできるようになったので、更新していこうと思います。